もう一つの日記
第六週(後半)
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1月14日(火) |
予告どおり、まず昨日の続きから書きます。
冴子先生の家に向かう間に、僕は三つのことを尋ねました。 先週の木曜からどうして行方をくらましたのか? 冴子先生が実咲さんの家にいた理由は? 僕たちが帰ったあの後、三人で一体何を話したのか? 全て部長が答えてくれました。 部長が行方をくらました理由は、冴子先生から自分の子供を妊娠したと言われ、怖くなって姿を隠したそうです。 冴子先生は、妊娠疑惑が晴れたことを部長に言おうとしたが、姿を消していてどこにいるのかわからない。 そこで、実咲さんは居所を知っているだろうと思い、 彼女の家に訪れて話を聞いてもらい、部長の居所を聞き出そうとした。 このときは催眠術を使わなかったのだろうか? と疑問に思ったが、まぁたいした問題ではあるまい。 ちょうど、そこに僕たちが押しかけてきた。 裏口からでることもできたが、様子をうかがおうと思い、冴子先生は慌てて押入れの中に隠れた。 そして、冴子先生が僕たちと事件について話している間に、実咲さんは部長を呼び出した。 僕たちが帰ったあとは、妊娠してなかったことを報告し、今までのことを洗いざらい話した。 三人は全てを僕たちに言うことを決心した。 そして、その日のうちに全員の催眠を解いたのである。 ただし、僕を除いて・・・・。そこには深い理由が隠されていたのです。
冴子先生の家に着きました。 先生は僕にこんなことを言いました。 「いい? 直治君。真実を知るということは、今までの考え方や見方が一瞬にして変わってしまうかもしれないの。 つまりは、それだけの覚悟が必要だってことだよ? 覚悟はできてる?」 何を言っているんだ? 写真隠蔽のための催眠でしょ? 内容がわかってるのにどうしてそんな覚悟がいるんだ? 質問にあまり深い意味はないと思っていました。だから素直に「はい」と答えたんです。 冴子先生は催眠解除を行ってくれました。 僕が目を覚ました瞬間、記憶があふれ出ました。 一瞬にして心臓の鼓動が高まり、僕は胸を押さえ息を荒げていました。 そういうことだったのか。 よく、電気が体中を走ったという表現を聞きますが、本当にそんな感じでした。 自分の感情と記憶の目覚め。僕はそれを味わうことになったんです。 僕は完全に記憶を取り戻しました。 「大丈夫?」 とは紗耶の言葉でした。 きっと、よほど苦しそうにみえたのでしょう。 「う、うん。問題ないよ。ただ・・・」 「ただ何?」 「・・・いや、なんでもないよ。」 その時はまだ、僕が作り笑いをしてたことに、自分自身気がつきませんでした。
こうして3つの事件はようやく終わりを告げたのです。
そして、今日。 「よう、ナオジ。無事事件が解決したな。これで安寧の日々を送れるわけだ。」 「あのなぁ、健次。ほんと昨日は大変だったんだぞ。事件が解決したっていうのは万万歳なんだけど・・・。」 「冴子先生に催眠といてもらったんだな?」 「あぁ。そういうこと。」 「やっぱり衝撃だったか? あのことは」 「ったく、衝撃どころの話じゃないってば。自分の感情が記憶となって戻ってくるなんて経験したことないんだから」 「事件に巻き込んじゃって悪かったな。」 「だめ。許さん。罰として今度アイスおごんなさい」 僕等に再び笑いが戻ってきました。笑顔で僕は話し掛けました。 「その様子だと健次も全部冴子先生から聞かされてたんだな?」 「おう。催眠を解いてもらったときにな。でも、もちろんナオジには言うなって言われたさ」 「そうだねぇ。多分健次から聞かされただけじゃ信用してなかったね」 「あ、そうそう、それからこれ。冴子先生から預かってたものだ」 僕はそれを受け取りました。そうか。暗示に隠されてたのはこれだったわけか。そう思いながら僕は言いました。 「さんきゅ。覚悟はできてるから心配しなくていいよ。ちゃんとけりはつけてくるよ。」 「ならいいんだ。俺からは特に言うべき言葉はない。 結局あれだな。みんな催眠にかかってたんだな・・・。あ、いや。紗耶と部長さん以外・・・か」 「それと都知事もだよ。悲しい結果になってしまったね。都知事も冴子先生も・・・。」 「しかたないだろうなぁ。自分たちがまいた種だったわけだし。俺たちは被害者だったんだ。 自分の力を確かめたかった冴子先生に利用され、俺らは駒として動かされていた。 暗示にはかかっていなかったにしても、都知事だって例外じゃない。 都知事も冴子先生の術中にはまっていたわけだよ。俺を浮気相手だと思わせる術中にな。 だからといって都知事が俺を轢いていいなんてことはもちろんなくて、いけないことだ。自分の意志だし。」 「だね。残念なことにその二人とも、もう学校には顔をださないね。」 「あぁ。都知事は昨日のうちに学校から追放されたようだけどな。」 冴子先生は、やはり今日学校に姿を現しませんでした。教師生活最後の日、と昨日彼女が言っていたように、 既に覚悟はできていたのでしょうね。
今日は2つの授業が自習になりました。 都知事と冴子先生の担当するはずだった授業です。 さすがに高校生。自習のときの落ち着きのなさは天下一品です。教室を出るやつまでいるほどです(笑) そんな自習の時に、良則が僕のもとへ来ました。 良則は、事件に全く関係なかったけど、それでも僕を気遣ってくれて、 「大丈夫だったか?」 と言いながら僕の話を真剣に聞いてくれました。 そこに円花が来ました。 「よ、ナオジ。元気でたか? 全く。世話やかせやがってぇ」 「その男みたいな口調、いい加減改めたほうが身のためだぞ。健次もさぞかし嫌だろうに・・・」 トイレで席を立っている健次の方向を見ながら、僕は円花に言いました。 「健次君はねぇ、あんたと違って、思慮分別のあるいい男なんだよ。ナオジも早く告白しなよ?」 「え? ナオジ、おま・・・。えぇ? 告白?」 「まてまて良則。好きなやつなんていないのにどうやって告白するのさ。 こいつは未だに催眠術の後遺症が残ってるんだよ。」 と円花に指を差しながら説明しました。 「ハハハ。そうだな。円花だもんな。」 納得する良則。 「ひどいねぇ、君たち。私はそんなに信用されないわけ?」 そういうと円花は、ちらりと僕を見て意味深なウインクを一つしてから自分の席に帰っていきました。 あんにゃろう。覚えてやがれ。いつか仕返ししてやる。
実咲さんはどうなったのでしょうか? 僕は気になって部活のときに聞こうとしました。 「ねぇ、部長。ちょっといいですか?」 「今練習中だ。話は後にしてくれ。」 と、冷たく突き放されました。ひどいよ、部長。かわいい後輩を目の前にして。 その後、練習の合間に僕は、見事部長を連れ出すことに成功しました。 「部長、実咲さんはこれからどうなってしまうんですか? このままずっと隠しとおしていくつもりなんですか?」 「まぁ、今のところはそれしか考えられんな。父親も最近は落ち着いてきたようだしな。 ちゃんと働いてくれれば俺たちには問題ないわけだ。 実咲にも仕送りが届いてるようだし、お袋も最近はパートで頑張ってるから、どうにか生計はたってるみたいだ。 俺の家、というより父親の家か。そこに帰ってくる必要はない。 もうあいつには辛い思いさせたくないんだよ。実咲には・・・。 やっぱり虐待ってのは体の傷じゃないんだよな。心の傷ってよく言うだろ?」 僕はうなずきました。 「だから、絶対に父親にはこのこと内緒にしたいんだ。もう、誰も苦しまないで済むように」 「でも、それじゃ実咲さんは戸籍上、死んだことになったままじゃ・・・・・」 「あぁ。そういうことを心配してくれてたわけか・・・。そのことなら大丈夫だ。冴子さんがどうにかしてくれた。」 「え? もしかして催眠術で?」 「いや、さすがにもう催眠は使ってないさ。まぁ色々とあるんだよ。コネとかツテとかは。」 僕には何のことだかさっぱりでしたが、どうやら実咲さんと部長は心配なさそうです。 きっとこれからも、今の生活を続けていくのでしょう。それが彼らの選んだ幸せな道なんだと思います。 もう、きっと事件は起きないでしょう。そう思うと同時に願う僕でした。
夜、僕は電話をしました。 「あ、僕だよ、ナオジ。明日なんだけどさぁ。学校休めない?」 「は?」 僕は用件を伝えないままに、待ち合わせ場所を伝え、電話を切りました。 事件は終わりました。 でも、僕の中でまだ終ってなかったことがあったんです。 全ては明日。 明日になってようやく僕は、催眠術に隠された全てのものを終えることができるのです。 興奮覚めやらぬまま、僕はこうしてキーボードを走らせています。 流空さん。なんだか変な日記になってしまってすみませんでした。 多分、僕の日記は明日で終わりを告げます。 その理由も明日言いますね。 とりあえず今日はこれでおしまいです。 おやすみなさい。あんど、ありがとう。 |
1月15日(水) |
流空さん。今までどうも、ありがとうございました。 どうやら補足として、流空さんにメールを書かないといけなくなったようですが、 日記のほうは一応、これで終わりということにしておいてください。
昨日の電話でも僕は不安を抱えていました。 果たして僕の選択はあっていたのか? 誰にも打ち明けずに自分だけで判断して本当によかったのか? いや、これは僕の問題なんだ。自分で解決しなきゃ。 複雑な気持ちのまま、僕は待ち合わせ場所にいました。 腕時計に目をやり、顔を上げた次の瞬間、その姿を視界に捕らえました。 「ごめんごめん。おまたせ」 「いや、待ってないよ。今来たところ」 軽い挨拶を交わした後、集合場所の公園を抜けて遊園地に入っていきました。 歩いている間、会話をしていましたが、僕の耳には入っていませんでした。僕は思い返していたんです。 あの写真のことを・・・。 そして、観覧車の前に来た時、僕は隠していたことを打ち明けようと決心しました。 僕は振り返って言いました。 「とりあえず、これに乗ってゆっくり話をしよう。今までのこと全部」 「いいけど・・・。今ままでのこと、って催眠術の事件のこと?」 僕たちは観覧車に乗りました。 「催眠術の事件は直接は関係ないよ。でも、間接的に結構からんでくるのかな?」 「どういうこと?」 「おととい僕は催眠を解いてもらったでしょ? あの時、僕は実咲さんの写真を見た、っていう記憶を取り戻したんだ。 整形前の写真だったけど、あんまり変わってなかった気がするな。 実咲さんが教科書とか文房具とか拾ってる間に、僕がそれを手にとってしまって、たまたま裏を見てしまったんだね。 そこには「実咲」の文字がきっちりと書かれていたよ。」 「それは、聞いたけど・・・・」 「でも、それだけじゃなかったんだ、僕が思い出したのは。」 「え?」 「実はね。もう一つの写真の記憶も一緒に消えてしまってたんだ。 その写真は冴子先生が持ち歩いてたわけじゃない。 僕が持ち歩いていたんだけど、実咲さんが転んだときの落し物を拾っているときに、今度は僕が写真を落としたんだ。 冴子先生は 「実咲さんの写真」 と一緒に僕の持っていた写真も、拾ってしまってたんだ。 僕はそれに気がついていなかった。多分、拾った先生自身もね。 僕が廊下を歩いていたとき、先生に声をかけられた。そして、僕を誰もいない教室に連れて行った。 疑うことを知らなかった頃だから、恥ずかしいことに安易に催眠にかかってしまったんだよ。 僕に 「写真のことは忘れる」 ように暗示をかけた。 冴子先生は意図していなかったと思うけど、僕は同時に二つの写真の存在を暗示によって消去されたわけだ。 だから、忘れていたんだ。 写真のことも、それにまつわるエピソードもね。」 「・・・・・・?」 「暗示が解かれたことによって、その写真の存在と、それに付随する感情とエピソードが全部蘇ったよ。 あまりの衝撃で世界が変わってしまうかと思った程。 冴子先生が写真の存在に気付いて健次に渡しておいてくれたらしく、昨日健次のほうからその写真を返してもらった。 そのもう一枚の写真というのはね、僕、健次、紗耶、円花、良則のメンバーで花火大会に行ったときの一枚だった。 写真を撮ってくれたのは健次。どの写真か分かる?」 「ひょっとして・・・。二人が写ってる写真?」 「鋭いね。ご名答。僕は暗示をかけられたあの日に、君からその写真をもらったんだよ。 だから持ち歩いていたんだ。 そして、ちょうどその日の夕方、本当は大事な用事だといって君を呼び出すはずだった。 でも、暗示のかかっていた僕にはそれはできなかった。 呼び出す予定も忘れ去られていたからね。 だから今から言うよ。」 「え? 何を言うの?」 僕は宙に浮いた視線を一度外に向け、再び彼女に戻しました。そして、一呼吸してから言いました。 「ずっと思ってた。僕は紗耶のことが・・・・・好きだ。」 どのくらいの沈黙だったのでしょうか。時間が長く感じすぎて、僕は息が詰まりそうでした。 驚いた表情の紗耶。しかし、僕の言葉の理解をした後、彼女はうつむいてしまいました。 次に発せられた紗耶の言葉に、僕は思わず観覧車からダイブしたくなりました。 「・・・・・・・ごめんなさい」 あぁ。やっぱりか。 「気付いてあげられなくて・・・」 「え?」 「実はね。写真を直治君のところに渡しに行った日、直治君が私に告白しようとしていたことは、薄々感づいていたの。 円花が直治君の気持ち知ってたから、「今日あたり告白されるよ」 って言われたんだよ。 その日、部活終って結構遅くまで学校にいたんだけど、直治君は声をかけてくれなかった。 だから、円花も適当なこというなぁ、って思ってたの。 その後になっても一向に告白してくる気配なんてなかったから、これは円花の勘違いなんだろうな。って思った。 まさか暗示にかかってたなんて・・・・。 もっと早く私が気付いていれば、今回の事件だって防げたかも知れない・・・。 気付いてあげられなくて、ごめんなさい。」 ああ、そういう「ごめんなさい」ね? てっきり、即お断りの発言かと思ったよ。 「いいよいいよ。そんなこと、円花ならまだしも、紗耶が気付くわけないよ。」 やれやれ、これじゃ付き合ってください、だなんて言えないや。 「・・・・直治君」 「ん?」 「私と付き合ってください」 「うん。・・・うん? 今なんて?」 「私と付き合ってください、って言ったの」 僕には全く理解ができませんでした。彼女の言葉は日本語なのでしょうか? 「え? だって・・・。えぇぇ!!」 「ごめんなさい、私からいうのは反則だったかしら。 最初は直治君のことは好きでも何でもなかったのよ。 あ、ごめん。言い過ぎた・・・」 といった彼女の顔には、照れ笑いが浮かんでいました。 「最初は私、本当は良則君のことほのかに恋焦がれ始めてたのね。いいなぁって感じくらいに。 そのことを円花に話したんだ。 その日以降、円花がうるさくて。 あの子、私のとこに来るたびに、ナオジが紗耶のことをナオジが紗耶のことを、ってうるさいんだもん。 そこまで言われたら意識しないわけないでしょ? あぁ、直治君は私のこと・・・。ハハハ、言ってて恥ずかしくなるわね。」 顔を赤らめながら紗耶は僕から目を離し、観覧車の外を眺めました。 「まぁ、一種の暗示だよね。その時くらいから意識し始めて、あの花火大会でしょ。 私と二人きりで写っている写真を見て、円花が 「ほら、あいつこの上ない笑みうかべてるじゃん」 って言ったのよ。 不思議なもので、相手が自分のこと好きだって分かると、自分も相手のこと好きだって思ってきちゃうんもんなんだね。 いつの間にか私、告白されるのずっと待ち焦がれてたの。 誰でも良かったわけじゃないけど・・・。 でも。 写真を渡したあの日に告白されても、私はオーケーを出さなかったかも・・・。 私が、何の洗脳もなしに本当に好きになったのは、つい最近の話だもん。」 「え?」 紗耶は僕の方に向き直り、グーサインを示しました。 「直治君が事件を解決してくれたから・・・。かっこよかったよ、その勇姿。」 僕たち二人は、思わず吹き出して笑ってしまいました。 何がおかしかったのかわかりません。 でも、張り詰めた緊張が解けたせいか、二人とも大きな笑い声が観覧車に響き渡っていました。 「よかったぁ。すっごく嬉しいや。あ、ちょうどこのあたりだったんじゃない?」 僕は笑いを抑え、また外を見ました。観覧車は頂上に差しかかろうとしていました。 「あっ、それで観覧車だったのね?」 と紗耶。 「そゆこと」 「懐かしいね、去年の花火大会。誰だったっけ? 観覧車にのって見てみよう、なんて言い出したの。」 「そりゃもちろん健次だよ。あの男わざと自分と円花が乗り遅れるように仕向けたんだよ。 んで、僕と紗耶と良則がまんまと騙されて先に乗り込んだ。 さすがに健次はやることうまいね。次の観覧車に二人で乗り込んで・・・」 「そこで告白した、だよね?」 「そうなんだよ。この頂上付近で告白したんだってさ。僕たちさすがにその時は気がつかなかったね。 健次が円花に気があることは分かってたけど、まさか告白してたなんてね。 しかも、花火が二人を祝福するかのようにバンバンバンって。あ!」 「どうしたの?」 「いや、唐突に思い出したんだけど、もしかして、健次。あの時のあの芝居は僕に気付かせるためだったのかな」 「どのときのどの芝居?」 「ほら、健次が催眠術にかかって紗耶と付き合ってるとか言ってたでしょ?」 「うん」 「あのおのろけモードの健次、似てるんだ。告白しようとした日の僕に。 そうだったんだ。健次は僕の紗耶への気持ちを思い出させようとして。そして暗示が解けるようにと、あの芝居を。 僕が少しでも嫉妬してたら思い出したんだろうけど、結局思い出せなかったな、その時は。」 「あら、私のことそんなに好きじゃなかったのかしら?」 「あ、いや、そうじゃないよ。勘弁してくれ」 「アハハハ」 僕は思いました。 円花も健次もいいやつだ。 円花は僕の気持ち知ってたから紗耶を洗脳して、両想いにさせようとした。 健次はとことん協力してくれた。紗耶への気持ちも思い出させようと必死になってくれた。 二人には感謝しています。 「ねぇ。あの二人が告白した後、どうなったか知ってる?」 突然イタズラな笑みを浮かべて紗耶が質問してきました。 「は? なんかなったの? 僕は何も聞い・・・」 喋ることができなくなっていました。 あまりの驚きに口をふさがれた、というのもありましたが、僕はその時本当に口をふさがれていたのです。 全くもって信じられない光景でした。 「え?」 「キスしたんだってさ」 彼女は唇を離した後、恥ずかしそうに笑いながら対面の席に腰掛けました。 「あ・・あのさぁ。これって夢じゃないよねぇ・・・?」 僕にはもう何がなんだかわかりませんでした。 「言っておくけど、私は暗示になんか、かかってないからね」 そういった彼女のほのかに赤い顔は、既に外を向いていました。
観覧車を降りたとき、僕は再び目を疑いました。 「ぉおっ! なん・・・。どうしてこんなとこいるんだよ」 「いやぁ、ナオジが一世一代の大勝負に出るって言うからみんなで来てやったのさ」 「学校は?」 「なんだか大変なことになっちゃって、今日は午前中で終っちゃったよ。二人も教師がああなっちゃったら無理ないだろうね」 言いながら健次は嬉しそうに僕のところを見ていました。 「な、なんだよ、健次。」 「いや。なんでも・・・」 ホント嬉しそうだ。 観覧車を降りたとき待ち構えていたのは、円花と良則と健次でした。 「ちょ、ちょっと健次、こっちこい」 「なんだよ、リンチされんのか?」 「いいからこいって。・・・・リンチってまた古いなおい」 僕はみんなの前から健次を離れた場所に連れ出し、聞き出しました。 「なぁ、健次、観覧車でお前、円花とキスしたのかよ。聞いてなかったぞ。」 「え? ・・・・アハハ! そりゃ、円花が紗耶に吹き込んだ嘘だよ。ちょっと話を面白くしてやろうと思ってな。 俺が指示を出したのさ。」 「あ・・・・・。」 やられた。完全にやられました。全てこの男の仕業だったのか。 やっぱり頭がいい奴です。 「ってことはお前はキスをしたんだな?」 ホント嬉しそうです。 「はぁ、もう勘弁してくれよ」 「ハハハ。今年の最初に引いたおみくじ、やっぱり当ってたんだな。」 「え? 何が」 「悩み事、苦難、多し。しかし、早々に解決。後に快晴。そんな感じじゃなかったっけ? ナオジのおみくじ。」 「あぁ。そうだねぇ。そういうことになるかね。ん? そういや健次は? 健次のおみくじって確か・・・」 「ノーコメント。聞いたら驚くぞ」 「え? えぇ!? 何なに? 気になる」 「気にするな、たいしたことじゃないから」 いや、だったら口に出さないでください。完全に気になりました。 「みんなのとこ行こうぜ。」 最後の言葉は、親友なりの祝福の言葉だったのでしょう。 「あ、そうそう。そういえば、良則のやつ、かなり悔しがってたぜ。車で轢かれないように気をつけなよ」 振り返り、笑いながら僕にそう言いました。
こうして、僕の1ヶ月に及ぶ大事件は幕を下ろしました。
紗耶、健次、円花、良則。 3つの事件は、いや、4つの事件は彼ら仲間がいなければ、解決できなかったでしょう。 みんなが遊園地の乗り物で遊んでいる中、 僕は一人1月の空を見上げ、今年一番の笑顔を太陽に見せつけていました。 そう。それはまるでおみくじに書かれていたような 「快晴」 の天気でした・・・・・。 |
「直治の日記」
完
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