もう一つの日記
第三週(前半)
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12月29日(日) |
この年の瀬の最中に先生に会いました。 健次とも話をしました。しかし・・・・。
30日からどのデパートも休みに入るということもあって、今日はみんな急ぎ足で買い物を済ませている様子でした。 僕の家の近くにもデパートがあります。 健次からの連絡を家で待っていたかったんですが、年末恒例、家族総出の大じゃんけん大会に負けて、 今年は僕が買い出しに行かされました。 買ってきて欲しいものが紙にかかれ、それを僕が買ってくるのです。 先生と会ったのは、食料品売り場の麺類のコーナー。僕と同じように、年越しそばをカゴにいれにきたようです。 愛称「都知事」の異名を持つクラス担任の裕次郎先生です。 なぜ都知事なのかは「石原」という連想をしてもらえば分かると思います。 最近、国語教師で隣のクラスの副担任を務める冴子先生と 熱愛発覚が報じられている、30歳前半のイケメン数学教師です。 「よう。ナオジ。こんなところで何やってんだ。」 「あ、都知事、じゃなかった、先生。先生までナオジって呼ばないで下さいよ。」 「ハハハ。お前だって一瞬都知事って言っただろ。 やっぱり年の瀬ってのは色々と忙しくてな。こうやって新年に入る前に買いだめしとかなきゃいかんのよ。」 そういいながら裕次郎先生はそばを三袋、買い物篭に入れていました。 先生は一人暮らしなので、いっぱい買う必要がないんですが、三個買うということは、一人で三袋分食べる食いしん坊なのか、はたまた一袋は・・・・。 まぁ深い詮索はしないでおきましょう。 「そういやクラスのやつに聞いたぞ。健次、事故に遭ったんだってな。大丈夫だったのか? あれからどうなった?」 「あぁ、あいつのことなら心配要りませんよ。左腕の骨折だけですみました。だから今はもうピンピンしてますよ」 その言葉は自分に言い聞かせていただけかも知れません。 健次は大丈夫。今もピンピンしているはず。と。
家に帰ると姉が伝言を伝えてくれました。 健次から電話があったそうなんです。僕が帰ってきたら電話をして欲しい。 それを聞いて、僕は焦る気持ちを抑えながらダイヤルを回しました。 「あっ、直治か。昨日はすまなかったな。ちょっと急な用事ができてさ。 え? 何? 手紙? 手紙なんて書いた覚えないよ、俺。 話したかったのはな。・・・恋愛の相談なんだけど。 お前に隠してたことあってだなぁ。実は俺、紗耶と付き合ってんだよ。 えっ? 知ってたのか? 何だよ、知ってたんだ」 そこからは健次のおのろけ話と恋愛に対する不安を、一時間程度聞かされました。 違います。僕はこんなことを聞こうとしていたんじゃありません。 こんなこと言うために、わざわざ健次が会ってまで連絡を取ろうとしていたわけじゃないはずです。 一体どうしちゃったんだ、健次。昨日何があったというんだ。 健次は話すだけ話した後、僕の質問に答えることなく 「それじゃ、良いお年を」 と一方的に電話を切ってしまいました。 絶対違います。こんなの健次の姿ではありません。 きっと健次は、もう何も占い師については話してくれないでしょう。 僕は電話を終えた後、しばらく考え、そして固く決意しました。 健次を、健次を元に戻そう。僕が真実を突き止めてやろうじゃないか。 占い師、待っていろ。化けの皮をはがしてやる。 |
12月30日(月) |
今日は誰とも会いませんでした。 その代わり図書館に行きました。目的は二つ。冬休みの宿題と調べ物です。 図書館も今年は今日で終わりということもあって、いつもより大勢の人が訪れていました。
図書館の机付きの椅子に腰掛けた後、僕は占い師のことについて考えました。 あの占い師は本物なのか。 おそらくその答えはノーです。 健次は占い師との事を「事件」として考え、占いの信憑性について探っていました。 そして一昨日、健次はその「事件」の真相をつかんだ、あるいはつかみかけたのでしょう。 一人で立ち向かったようです。 しかし、逆に健次は返り討ちにあい、やられてしまいました。 弱みを握られたか、もしくは脅されたんだと思います。彼は全ての真相を闇の中へ封印せざるを得なくなりました。 ということは、一昨日に書かれた健次の書き置手紙は、健次がまだ事件を追い求めていた時の信頼性の高い手紙だ、とみて間違いないでしょう。 あの手紙に書かれていたこと。僕は持ってきた手紙を読み返して確認しました。 健次はその手紙の中で 「事件が解決するかも」 と答えていました。 重要な手がかりを手に入れて、そのことを確かめようとしたに違いありません。 さらに、「全ての人間を信用するな」 とも書かれていました。 これには何か意味があるのでしょうか。 おまじないだとかなんとか言っていましたが。 占いだのおまじないだの、勘弁して欲しいです。 僕は席を立って、何の当てもなしに書物を探し始めました。 立ち止まることなく、帰ってきてしまいました。 困りました。探そうと思っても何を探せば手がかりになるのか分かりません。 しかし、自分の席に帰ってきてビックリしました。 一冊の本が、僕のノートの上にポツリと置いてあったんです。 見ると 「心理学入門」 と書かれた少し難しそうな書物でした。 すぐに周りを見回しましたが、人がいっぱいいるし、誰もこちらを見ている人がいないので、誰が置いたのか分かりません。 不信に思いながらも、席に座りその本を読み始めました。 なにやら、異世界の言葉としか思えないような難しい内容で、僕にはさっぱり理解できませんでした。 入門編でこれなら、応用編なんてとんでもなく難しいんでしょうね。 その中でも、僕に理解できる部分がありました。 睡眠作用。 なにやら、人間の睡眠というのは、体の反応だけではなくて、心理によっても左右されるらしいんです。 そんなことはどうでもいいですね。 それ以外、今日の収穫はありませんでした。 本は一体誰がおいたのか。気がかりです。 まあ、しかし、ありがたくその本は借りてきました。 なんとなくヒントがそこに隠されていそうなんです。 ヤマ勘ですけど。
明日は何しようかなぁ。 大掃除も終っちゃってるし。 家で本でも読んで、悲しく年末を過ごすことにします。 |
12月31日(火) |
今日は大晦日です。 あと数時間で年が明けます。 直治の日記もいよいよ新年に突入です。 天ぷらそばが美味しかったぁ。
昨日の 「心理学入門」 を読みました。 結構面白い内容でした。 その中で、どうやら今回のことに関係がありそうな内容を一つ見つけました。 催眠効果における心理状態。 催眠術というのは、人を思い通りに操るのではなく、その人の「思い込み」を利用する心理誘導なのだそうです。 言っている意味がよく分からないと思いますが、つまりはこうです。 術師は人に「あなたはこうなんですよ」と、思い込ませることによって術をかけているわけです。 今回の場合、もし、この心理作用を利用したとしたら、こういうことが考えられます。 部長の不幸、高熱が出た。 これは、占い師が「あなたに不幸が訪れます」と宣言したため、部長は「不幸が訪れる」という思い込みから、自分で勝手に不幸を連想して、占い師の思惑通り精神的なものから高熱が出てしまった。 と、考えることもできます。 しかし・・・・。 そんな低次元な問題ではなさそうですよね。 だって、心理作用だけじゃ人の部活を言い当てることなんてできないわけですから。 もう少し色々と考えてみることが必要です。
さっき、円花から電話がありました。 健次と良則と円花と紗耶、そして僕の5人で初詣行こう、という提案でした。 僕の家からあまり遠く離れていないところに、地元民がよく初詣に来る神社があります。 どうやら、彼ら4人は僕の家を経由して初詣に行こうとしているようです。 どうせ暇なので付き合うことにしました。 紅白どっちが勝つんだろう。 今年の日記はこれで終わりです。 それでは良いお年を。 See you next year! |
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