もう一つの日記

 

第四週(前半)

 

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10月24日(木)  晴れのち曇り

昨日のヒロキからの手紙で事態は急展開を迎えた。

日記を書き始めて4週目に突入したが、まさか、俺がこんな小説みたいな日記を書こうなどとは、一体誰が知りえたことだろう。

 

ヒロキからの手紙。

「おっす。翔馬。元気してるか? 俺は怪我してる(笑)

何から話していいか良く分からんが、とりあえずだらだらと書くよ。

昨日、実はストーカーのことについてお前にちょっと報告をしようと思って、お前の家まで行ったんだ。

ほら、昨日、大学の講義が終って暇かどうか聞いただろ?

あれはストーカー情報を教えようと思ってだな。

もし暇だったら俺の家にでも呼んで、酒でも交わしながらじっくり仮説を聞かせてあげようと思ってさ。

でもやっぱりその日のうちに聞かせておいたほうがいいだろうと思って、結局翔馬の家まで行ったわけよ。

早くしないと翔馬に実害が及ぶんじゃないか、と心配だったしな。

ところがこれがいけなかった。翔馬の部屋が二階なのもいけなかった(笑)

翔馬のアパートまで行って、翔馬がいなかったので帰ろうとしたら、後ろから誰かに押された。

で、階段から落ちたわけだな。

幸いなことに大事には至らなかったけど。

すぐに退院できそうだ。

階段から落ちた直後、振り返ったが誰もいなかったよ。素早い・・・・。

押される直前言われたことから察するに、俺と翔馬を間違えたようだ。

後ろから、そいつは低い声でこう言って押したんだよ。

(しょうまぁ)

男の声だったのは確かだな。うん。っていって女だったら笑う。

俺が翔馬の家から出てきたと思ったんだろうね。

気をつけろ。翔馬。やつは本気だ。

無茶はするな。

あと、無理にとは言わんがまなみさんとは、犯人がわかるまでは接触を避けたほうがいいぞ。

それこそ、やつの本気モードが発揮されちまう。

俺が翔馬じゃないってことは、すぐに気がつくことだろうし。

で、どうしてわざわざ彩奈を使ってまで手紙で送らなければいけなかったのか、疑問に感じたことだろうね。

理由は3つ。

携帯電話、階段から落ちたとき壊れたのが一つ。

これだけのことを伝えるのには手紙が一番効果的ってのが二つ。

三つ目は、この情報をどこにも漏らしたくなかった、という理由。

電話やメールだと、ストーカーにばれる危険性大!!

手紙に書いた内容は意外とばれません。

ただし、ごみとして捨てた場合はアウトだけど。だから捨てないようにね。

だから古典的な方法だけど、手紙に頼った。というわけですね。はい。

漏らしたくない情報ってのを今からこっそり教えるぜ。

ストーカーの犯人のめぼし。ついてる?

俺はなんとなく分かった気がした。

彩奈から聞いたことなんだが、まなみさんには一年半前から付き合っていた彼氏がいたらしい。

今はもう、別れたらしいが。

ストーカーのケースで最も多いのが、元恋人。

真奈美さんの元カレは現在フリーター。まぁ、アルバイトしてるけど。

人を付けまわすのには充分な時間がある。

そして、極めつけが、一人暮らし。

ストーカー要素がここぞとばかり満載な彼こそ、今回のストーカー犯人ではなかろうか。ふむ。

ということで、本当に彼には気をつけてください。

確定ではないから、まだなんともいえないけどね。」

 

と、綴られていた。もう一方の手紙を見て、驚愕した。

ストーカーの犯人からだった。

 

差出人不明の手紙

「コレデワカッタダロウ

オレガホンキダ  ト

キノウ コノヘヤニ マナミガ トマッタ コトハ ユルセナイ

アイテヲ マチガエタガ マナミト マダ セッショクスルヨウナラ コンドハ マチガエナイ

ツギハ コンナモノデハ スマナイ

マナミカラ テヲヒケ

オマエノ トモダチニモ ヒガイガ オヨブゾ」

 

マナミさんと昨日一緒にいたのをしられていた。

さすがに怖くなって、何も考えず昨日はそれで寝た。

朝、あまり目覚めがよくなかったが。大学に行き、講義を受けた。

ユウジがいた。講義が終わり、話をした。 

ユウジに相談して、決まったこと。

一度警察に全てを話してみる。マナミさんとはしばらく接触しない。

マナミさんとの連絡はユウジを経由して情報を得る。

明日、俺がヒロキのお見舞いに行く。

マナミさんと元恋人コウイチの関係については、ユウジが調べる。

ユウナさんの家に、しばらくマナミさんを泊めさせてもらう。

そんなところだ。

今、自由に動けるのはユウジしかいない。

彼に任せよう。

しかし、正直あまり警察には言いたくなかった。

マナミさんの俺にしてきた行為が犯罪行為なのかもしれないから。

でも、そんなことも言ってられないか。

今日のうちに警察に連絡した。

110番で連絡したら怒られた。緊急のときしか使ってはいけないらしい。

充分、緊急なのに。

仕方なく、電話帳で調べて警察署に電話した。

電話して話したけど、色々とわけのわからないことを言われて参った。

被害届の提出とか、身分証の提示とか。とりあえず、一度出向かないといけないようだった。

今日はもう遅いから明日にでも行ってこよう。

ガソリンスタンドのバイトも、いつも通り上の空でやっていた。

今日のバイトの時間はやたらと暇だった。

家に帰りメールチェック。3件。多いなぁ。

1件目。マナミさん。

「そっちはどう? 変わりない? こっちは大丈夫。悠菜の実家にお邪魔させてもらってます」

2件目。ユウジ。

「警察には連絡した? まなみちゃんにはさっき連絡して、俺を経由するように言っておいたから心配しないで」

思いっきりメール1件目にきちゃってるんですけど・・・。

3件目。知らないアドレス。

「翔馬。俺ヒロキ。彩奈の携帯借りてメールしてる。俺は大丈夫そうだ。明日にでも退院だってよ。そっちは変わりないか? 今日、警察が来た。調書を取らせて欲しいって。俺を突き落としたことはどうやら傷害罪になるらしい。彩奈が警察に連絡したからきたそうだ。ストーカーのことは話してないけど、話しておいたほうがよかったか?」

ユウジとヒロキ(アヤナさん)にそれぞれ大丈夫だ、という旨をメールで伝えておいた。

 

そろそろ俺も精神が破綻しかけてきている。

早く決着をつけたい。明日。俺は警察にいく。

全部警察に任せよう。俺が考える必要は何もない。

疲れた。おやすみなさい。

 

曇っていたせいで星は見えなかった。

 

 

10月25日(金)  晴れ時々曇り

警察は無能だと実感した日だった。

取り合ってもくれない。

なにやら、大きな事件がおきたらしく、「警察も忙しいんだから、そんな些細なことにかまってられないなぁ」 といわれ、一蹴された。

刑事ドラマみたいに「事件に大きいも小さいもない」って言ってやりたかった。

げんに些細なことでは済まされないかもしれない。

無能だ。そして、絶望だ。

 

今日あったことを話そう。警察のこと以外で。

大学では特に変わったことはなかった。

ヒロキはまだ完全に治ってないらしく大学の講義には出席していなかった。

今日もバイトは上の空。まぁ仕方がないな。その暇な時間で色々と考えていた。

今日はユウジがバイト仲間のコウイチさんに連絡をとった。

マナミさんの元カレだ。

ユウジから聞いた話。

コウイチさんは、ヒロキが階段から落とされた日は、ライブがあって街に出ていたらしい。

だから、ヒロキを突き落とすことはできなかった、と。

ライブ? そういえば、俺とマナミさんはその日ライブに行こうとしてたんだった。

とすると、コウイチさんもあのライブに行こうとしていたのか?

それに、コウイチさんに電話したときも「今から始まるから」って言ってた。

あれってライブのことだったのか。

だと、やっぱりヒロキを突き落とすことは不可能だし、その日にマナミさんにあの嫌がらせをすることも、出来なかっただろうし。

コウイチさんじゃないんじゃ? 他の誰か? 俺の知ってる人?

まさかなぁ。でも・・・・・・。

マナミさんをつけまわし俺の知ってる人である可能性って言ったら、あまり考えたくないが、ユウジ、ヒロキ、アヤナさん、ユウナさん、由香里、あとは容疑が強いコウイチさん。

可能性と矛盾を考えてみた。

この中に犯人がいないことを確かめるためだけ、に。

 

まず、アヤナさん。

間違いなく犯人じゃない。彼氏のヒロキを突き飛ばすわけないし。マナミさんに恨みを持ってるとも思えない。第一、マナミさんと俺を離そうとする理由が見つからない。

 

ユウナさんはどうだろうか。

彼女の可能性も極めて少ない。公衆電話からかかってきた無言電話。その時間、彼女はバイトだった。アヤナさん同様、マナミさんと俺を離そうとする理由がないし、マナミさんに恨みを持っているとも思えない。

 

由香里。

まだ入院中だ。福島にいるし。無理に決まっている。

 

コウイチさん。

元カレがストーカーになる可能性は充分にある。しかし、ライブハウスにいた様子は俺の電話で確かだった。犯人だとしたら、その時間、マナミさんに嫌がらせをして、その後ヒロキを突き落とさなければいけない。無理だ。

 

ヒロキ。

自分がやられておいて犯人なわけない。それに二通の手紙はヒロキが入院してから、俺の郵便ポストに入れられた。つまり、入院中の彼にはできないこと。

 

ユウジ。

ユウジなわけがない。あいつは俺の親友だ。マナミさんとのことで由香里のことも世話になった。あいつがするわけない。

するわけない・・・・。

・・・・・・・。

・・・。

なんだ? どうしてそうなる? 疑ってる? ユウジを? なぜ? 何の理由で?

考えたくなかったことだった。しかし、思い浮かんだことは簡単には消せなかった。

辻褄を合わせようと思えば、合わないこともないからだ。 

ユウジには犯人否定説の決定打がない。

公衆電話からの無言電話の時間も空白だし、ヒロキが階段から落ちたときもバイト先にいたという自己証言だけ。

確認が取れていない。

マナミさんの家の場所はコウイチさんから聞いて知っているかもしれなかった。

実家は福島で同じ。

高校時代に由香里を通じて会っていないって事も確認できない。

由香里に会いにいったのも、俺の無実を証明するためだけじゃないかもしれない。

ユウジはもしかして、由香里のストーカー? だから、由香里に会いに行ったりなんかしたんじゃ。

本当は会っていないとか。会った振りして俺に話したとか。

考えれば考えるほど、悪い方向に進んでいく。

もう考えたくなかった。一体誰が信用おけるんだろうか。

もう何も信じられなくなってしまった。どうしたらいいんだろうか。

マナミさん。今はあなたに会いたいです。

 

皮肉にも、今日は満月が綺麗に見えた。

俺はこんなに荒んでいるっていうのに。

疲れた。おやすみなさい。

 

 

10月26日(土)  雨時々曇り

ユウジはストーカーじゃない。それはわかった。

それだけで充分だった。だが・・・・。

 

色々と考えるところから一日が始まった。

起きたのが10時。

昨日のことを確かめるべく、ユウナさんに電話。

マナミさんはアヤナさんと出かけているらしい。どこに行ったかはしらない。

今はユウナさんの家にはいない。

ユウジはその日バイトに入っていたことが確認取れた。

シフト表に書いてあったというし、他の人も見てる。

つまり、ストーカーの被害があった時間、ユウジはバイト先にいたことになる。

 

ユウジには犯行は不可能だ。

 

その電話で新たなことが発覚。

コウイチさんはバンドをやってるらしい。

この前俺とマナミさんが行こうとしていたのは、コウイチさんがボーカルをつとめるバンドを見に行くためだったのだろうか。 

なんでマナミさんはそれを俺に見せようとしたんだろうか? ユウナさんにそのことを聞いてもらうように頼んでおいた。 

はっきりいって事件とはかかわりなさそうだが。

マナミさんの意図が知りたかっただけ。

ユウナさんが電話を切る直前にこう言っっていた。

「コウイチさんじゃないと思うな、犯人。彼女いるらしいし」

彼女がいるなんて初耳だ。それは一理ある。彼女がいるんならわざわざ元恋人に付きまとう必要はない。

やはり、コウイチさんは犯人じゃないのだろう。

とすると、俺の知らない人だろう。ヒロキと俺を間違えるくらいだし。

そう思おうとしたが、できなかった。

なんだか俺の第六感が叫んでいるように思えてならなかった。

そうじゃないよ。見落としてるよ。って。

なんだろう。胸騒ぎが大きくなっていく。

何か見落としているような。でも、それがわからない。

なんとも煮え切らない一日の始まりだった。

夕方頃、 俺はユウジに連絡して、彼の家まで会いに行った。

やはりユウジの入れてくれたコーヒーは美味しい。

コーヒーメーカーとして一家に一人は欲しいものである。 

俺の知り合いが犯人ではない証拠を話してるとき、ユウジは首をかしげた。

「変だなぁ」

何が? の質問に。

「それ以降、ぱったりとストーカーが影を潜めてしまったじゃないか」

と。確かにそうだ。あれ以降、メールも無言電話も嫌がらせの手紙もこなくなった。

「しかし、それは俺がマナミさんから手を引いたと思ってるから、何もしてこなくなったんじゃないんだろうか。」

「そうかなぁ。辻褄あいそうなんだけど、何かひっかかるなぁ。どうして、まなみちゃんを直接狙わないのか」

「それは、彼女のことが恐ろしく好きだったから。それに近寄る虫どもを追い払おうとでも思ったんじゃない?」

「じゃぁ、なんであの日だけ特別にまなみちゃんを脅かそうとしたんだろう。まぁ他の日も、無言電話はあったらしいけど」

そうだなぁ。分からんね、俺にも。第一ストーカーの行動は理解に苦しむから、無理に疑問を持つこともないんだろうけど。

ここで気になることをユウジは言った。

「無言電話かぁ。そういや、由香里も無言電話で悩まされてた、って言ってたなぁ」

嫌な予感がした。過去と現在を繋ぐ一本の出来事。ストーカー。

もしかしたら、と思った。

事件に直接関わりがあるとは思えないが、俺はユウジに聞いた。

「アヤナさんとヒロキってどっちから告白したの?」

突然の話にユウジは驚いていた。何をいきなり聞いているんだ。という表情を浮かべていた。

「さ、さぁ。ヒロキじゃないの? なんで?」

「いや、ただなんとなく気になっただけ」

こりゃ、どうやらユウナさんに聞かなけりゃいけないことが出てきたな。

まだ、なんとなく、の範疇を越えていないから本当にユウジにはなんともいえないんだよな。

確かめてみる価値はありそうだ。

俺はユウジのいる中、ユウナさんに電話した。

事件の真相についての会話はしなかったが、すごい事実が判明した。

ユウジに遠まわしに、それとなぁく聞くとそれを裏付けるような事実が浮かび上がった。

俺の頭が性能のよいハードディスクのようにフル回転しだした。

どんどん事実に近づいている。あともう少しで真相がつかめそうだった。

しかし、ひとつだけ分からない。

アリバイだ。

一体、どうやったらあんなことできたんだろうか。

そんな俺の真剣な表情を、心配そうに見つめるユウジの姿に気がついた。

「飯でも食おうぜ。どこかに食べに行こ」 とユウジ。

気がつけば7時半を回っていた。もうそんな時間だったのか。

 

俺たちは、よく通う近くの学生食堂に足を運んだ。

見慣れたおばちゃん店員が注文を聞きに来る。

俺は定番メニューの豚焼肉定食をたのんだ。

ユウジはそれと似たメニューだが、牛焼肉定食を注文した。

しばらく雑談した後、注文したメニューがテーブルに運ばれてきた。

「ハイッお待ち、豚焼き肉の方。はいはい、こちらね。こっちの方が牛焼き肉ね。」

お互い食べ始めたときに気がついた。

逆だってば! おばちゃん! 

入れ替わってるよ!

・・・・・・・。 

・・・・そういうことだったのか。

 

自分で突っ込んでおいてなんだが、気がついたことがあった。

アリバイの謎がこんな簡単に解けてしまうなんて。

俺は、ストーカーの事件のことについて、全てをユウジに話した。

何か疑問があったら俺が答える。もし、答えられなければ、この仮説は捨てる。

犯人との直接対決になったときに言い逃れされるかもしれないから、それに備えての予行演習だと思ってそうした。

ユウジの疑問を全て解き明かしてしまった。

放心状態のユウジ。

犯人の正体に驚いてそうなったのか、それとも俺の名推理に酔いしれたせいか、目が逝っちゃっていた。

ユウジの箸が止まってしまったので、勝手に横からつまみ食いをさせてもらった。

おばちゃん、感謝!

今日はそのままユウジの家に泊まった。

明日、直接対決する。

犯人と。

 

家に帰ってきてもまだ信じきれていないユウジ。

まぁ俺も結構、参ってはいるが、既に精神状態がおかしいのでこの日記も普通に書ける。

今、軽く鬱病のユウジ君が寝たので勝手にパソコン借りて、こうして日記を書いています。

大丈夫。ちゃんと許可はとってありますから。

じゃ、おやすみなさい。また明日。

 

 

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