もう一つの日記

 

第三週(前半)

 

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第五週(序章)   第一週   第二週   第三週(前半)

 

第三週(後半)  第四週(前半)  第四週(後半)  第四週(終焉)

 

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10月17日(木) 晴れ

昨日の日記には続きがあります。今日はそのことから書きます。

 

昨日、日記を書き終えて寝ようとしたが恐怖のせいから寝付けなかった。

もう深夜1時半を過ぎていたと思う。寝ていたら失礼だと思ったし、迷惑かもしれないとも思ったけど、なんとなく大丈夫のような気がしたので電話をかけてみた。

あっけなく2コール目で電話に出た。

「もしもし」

「あ、もしもし、翔馬だけど・・・」

「ショウマ君? どうしたのこんな夜中に」

「あ、いや。お誕生日おめでとうって言おうと思って。もう、昨日の話だけど・・・。」

電話の相手はユウナさんだった。彼女は少し笑った。そして喜んでいた。

「ありがと! すっごいうれしいよ。プレゼントは何くれるの? 期待しちゃっていい?」

憎めない彼女の反応に、思わず俺も笑ってしまった。

俺は誰かと話をしたかったのだ。話をして自分を落ち着けようと思っていた。

ユウナさんに電話した理由は、他にもあった。

確かめたいことが、いくつかあったからだ。

その一つ一つを聞いていった。

彼女は知ってることを全て話してくれた。ところどころ冗談交じりで。

要約するとこうなる。

昨日のパーティーに来たのはバイトの同僚たちで、その中にはユウジやマナミさんも含まれていた。

アヤナさんはシフトが入っていて参加できなかった。

ユウジは携帯を家に忘れてきていた。

最近のマナミさんには特に変わったところはなかった様子。

しかし、昨日、2次会の途中でユウジがマナミさんを呼び出してからしばらく帰ってこなかった時があった。

重要な話がどうのこうの言っていたらしい。内容は知らない。

写真はアヤナさんが持っていることが確認取れた。実際に見てみたかったらアヤナさんに見せてもらえばいい。

写真のことについて、ユウナさんがマナミさんに尋ねたところ、「今は言えないの」との返事だった。

「しょうまくんにはこのこと黙っておいて」 とも言われたらしいが、ユウナさんは酔っているからなのか饒舌で、そんなことお構いなしに話していた。

他にも多分色々と話してくれたんだろうけど、あまり覚えていない。

昨日はそれで電話を切り、睡眠に入った。

 

今日の日記に移ります。

今日の大学の講義をユウジは欠席していた。

メールを送ったが返ってこなかった。

どうしたのか心配になり、俺は講義が終ってユウジに直接電話をかけた。

しかし、電波の届かないところにあるか電源が入っていないためかかりません、というアナウンスが流れるだけで、応答はない。

ヒロキに聞いたがやはり知らないという。

昨日、何かあったのだと思い、真相を確かめるべくマナミさんに電話をかけた。

聞きたいことは色々あった。

しかし、それが出来なかった。

電話は彼女の話が一方的だったから。

「翔馬くん、ごめんなさい。昨日裕二くんと何があったかは言えないの。彼からそのことは翔馬にはいうなって言われてて。今日、大学いってなかったんだぁ、やっぱり・・・。彼のことは大丈夫だから、心配しないで。いたずらメールのことについてもまだ翔馬くんには話せないんだ。ほんとうにごめんなさい」

一方的にも程がある。これじゃ、何も解決しない。俺はストーカーに今でもつきまとわれているんだ。

心配しないで、なんて何で言える? それに、ごめんなさいってなんだよ。

教えられないからごめんなさいなのか、いたずらメールが私の仕業だからごめんなさいなのか?

せっかく真相に近づいたと思ったのに、そんな仕打ちないでしょう?

今の電話でストーキング行為がおさまるとはとても思えない。

もう誰が犯人だ、とか関係ない。

色々と絡み合ってることの真実を誰か俺に教えてくれ。

頭がおかしくなりそうだ。

でも、マナミさん、「まだ」教えられない、って言ってたなぁ。その言葉信用していいんだろうか?

近いうちに教えてくれるんだろうか?

そんなこと考えてるうちにメールが来た。

例のアドレスからだ。

「私は今、精神病院に入院中。あなたのお陰ですよ」

一瞬動くことが出来なかった。

驚きで声が出なかった。皮肉交じりのそのメールのお陰で、誰だか分かったからだ。

しかし、そうだとしたら・・・・。

俺のせいで彼女は入院したということになるのか・・・。

 

由香里。

 

俺の高校時代の元彼女だ 。

こうして日記を書いていると頭がだんだんもうろうとしてくる。

続きは明日にしよう。

日記に書くような事件は、今日は何も起きなかったから、明日も何も起きないだろう。

それまでに頭の中を整理しておこう。

おやすみなさい。

 

 

10月18日(金) 曇り

今日の日記を書く前に、少し触れておかなければいけない内容があります。

昨日出てきた由香里という人物です。

彼女は、俺の高校時代の彼女です。

年は一つ下。一年間くらい付き合っただろうか。

高校2年の終わりから、受験で忙しくなるくらいまでの期間。

大人しい子で、人によく気を使う。頭は良く、照れると耳に髪をかける仕草をするかわいらしい子でした。

ふったのは俺の方でした。

原因は、自分の受験と彼女の変貌でした。

受験でピリピリきていた時期に、彼女を放っておいたんです。

寂しい思いをさせるかもしれないと分かっていても、俺にはどうすることもできませんでした。

それと時期同じくして、彼女はノイローゼ気味になっていきました。

学校を無断欠席したこともあります。

何があったのか、彼女自身に聞きました。

しかし、彼女は何も話そうとはしませんでした。

今でもその理由はわかりません。

何があったのかもわかりません。

そのとき、俺がどういう行動をとればよかったのかもわかりません。

俺は受験に集中しました。

家庭の財政の都合で、俺が浪人するわけにはいかなかったからです。

それでも、彼女は俺に優しくしてくれました。

胸が痛みました。何もしてやれない俺に優しくしてくれるなんて。

そのたびに辛い顔をする俺。彼女はさらに辛くなりました。

このままではいけない。俺が彼女を苦しめている。

彼女を開放してやらなければ。

「終わりにしよう」

別れはあっさりしたものでした。今思えば、たくさん喧嘩しておくべきだったのかも知れません。

そうすれば、何か状況が変わったのかもしれない。仮定の話はよくないな。

それが、俺と由香里の付き合っていた頃の話です。

 

今日の日記に移ります。会話は、覚えている範囲で正確です。

朝、ユウジに電話した。今度はつながったが、電話にはでなかった。

ガソリンスタンドのバイトも、ボーっとしながらやっていた。バイトに集中できるわけがない。

帰ってくると、またハガキが郵便受けの中に。

「オマエニハイキルシカクハナイ」

 

夜、真相が知りたくて、俺はマナミさんにもう一度連絡してみた。彼女はすぐに電話に出た。

「はい、もしもし」

俺は自分の仮説を、確かめるつもりで喋り始めた。

「翔馬です。マナミさん。あのいたずらメール、誰が送ってるか心当たりあるよね?」

「・・・・・」 彼女は答えない。

「由香里・・・・でしょ?」

しばらく考えた様子でゆっくり話し始めるマナミさん。

「そう。由香里」

やっぱりそうだ。彼女は由香里のことを知っている。おそらく親しい人物。そして、最近でも連絡を取り合っている。

「あのメールアドレスは由香里のものなんだね?」

「うん」

マナミさんは必要最低限のことしか言わないようだ。多分、俺がどこまで感づいているのかを確かめるために。

「ユウジと何を話したの? 由香里のことでしょ?」 と、俺。

「うん、そう」

「じゃあ、ユウジは今、福島にいるんだよね? 彼女に会うために・・」

「・・・・・・」 答えなかった。違っているのか? いや、ここで引き下がるわけにはいかない。

「彼女がノイローゼになったのは、俺が原因なのか?」

「・・・・・・」

「質問を変えるよ。彼女俺にどうして欲しいって言ってる?」

その質問に対し、彼女はぼそりと口を開いた。

「・・・・何をしたか・・・」

「えっ?」

「あなたが何をしたか、それを分かって欲しいって・・・」

「何をしたか、だって? やっぱり彼女のノイローゼの原因は俺にあるって言うのか・・・?」

「今日はもうこれくらいにしましょう。明日は裕二君とも会えるでしょうし・・・。」

そういって彼女は一方的に電話を切った。昨日までの電話の対応とは明らかに違っていた。

なんだか、イラついているようなもどかしいような、そんな感じがした。

明日、裕二君にあえる・・・。その言葉がいつまでも俺の頭から離れなかった。

今日はいたずらメールはなかった。

窓から空を見上げたが、曇っていて星は見えなかった。

明日は晴れるだろうか?

 

 

10月19日(土) 雨のち曇り

電話はユウジの方から来た。朝方、時刻でいうと7時を回ろうとしていたくらいのことだった。

寝ぼけ眼で電話に出ると、彼は話し始めた。

電話の内容はこんな感じだ。

昨日と一昨日で、実家の福島に行っていた。精神病院にいる由香里に会うために。

高校時代に俺の彼女としてユウジは知り合っていたから、お互い名前も顔も覚えているはず。

精神病院の住所はマナミさんに聞いた。由香里は確かにその病院にいた。由香里と2日にわたり面会をした。

ガラス越しでしか会話は許されなかったが、会話自体には制限はなかった。

冷静かつ淡々と話す彼女が、途中からなんだか少し怖くなった。

しかし、精神に少し異常をきたしているようで、初日は途中で面会が終了した。

その日の夜、マナミさんに状況を報告した。

2日目は、彼女のほうから色々と話してくれた。前日より正常だった。

聞きたいことのほとんどを聞くことができた。

そこまで言い終って、ユウジは俺に振ってきた。

「由香里が話したこと聞きたいか?」

俺は、聞きたい、と答えた。

「なら、今から俺の家に来な。直接話したほうがいい。」

 

急いで着替えて、ユウジの下宿先に足を運んだ。雨で濡れた。

ユウジも眠そうな顔をしていた。家に招きいれた後、コーヒーを入れながらユウジは話し出した。

「由香里は高校時代にストーカーの被害にあっていたらしい。」

「えっ!?」

いきなり衝撃的な事実を突きつけられた。俺はそんなこと知らなかった。

ユウジは続けた。以下、会話文要約。

「知らなくて当然。彼女はお前には隠していたらしい。

受験でイライラしているときに、自分のことで迷惑をかけたくなかった。

翔馬の家庭の事情も考えて、翔馬には受験に専念して欲しかったらしい。

彼女は、ストーカーの被害にあいながらも、誰にも言わず一人で抱え込んでいた。

女友達もそのころ恋愛で真剣に悩んでいたらしいし、姉も受験生だったし、苦労してる親には迷惑かけたくないし、男友達もそのころ全員彼女持ちだったから、変に誤解されるのを察して相談できなかったらしい。

結局、誰にも相談できないでいた。

そんな矢先のことだった。お前が別れを切り出した。

ちょうどその日、事件がおきた。

彼女はストーカーに犯された。」

それを聞いた瞬間、体中に電撃が走った。一瞬にして凍りつく。

ユウジは残酷なまでに冷静で、話を進める。

「それが、初日に俺が聞いたことだ。初日は彼女そこから狂ってしまい、それ以上聞けなかった。

2日目に話してくれた事。

犯された後、家に帰ってきた彼女の服は破れ、あざだらけの体。

家族のみんなは何が起こったのか理解できなかったらしい。

ストーカーのことは内緒にしていたから。

あまりのショックと恐怖で、その時由香里は失語症になったという。

幸いなことに彼女は犯されたとき、最後まではやらせなかったらしい。

最終的な性行為を死守したってことだ。

被害届を出したが、結局犯人は見つからないまま。

家族の苦しみは今もなお続いている。」

ユウジはコーヒーを一口含んで、口の中の渇きを潤していた。俺も彼の作ってくれたコーヒーをいただいた。

「お前にメールしたことについても言及した。

由香里は、何も答えなかった。

その代わりに、彼女は無表情で涙を流した。

何を意味していたかは俺には分からない。

意味不明なことも話していた。

翔馬は悪くないのに、勘違いしてる、とか。

もしかしたら翔馬の近くにいるかも、とか。

彼女との面会は以上だ。そこで打ち切られた。

面会に立ち会う護衛官は、

最後に『彼女の言ったことは、全てが正しいことだとは限らないからね』

と言っていた。

しゃべり方はやさしかったが、明らかに威圧的な表情だった。

彼女が犯されたことはどうやら隠したいらしい。

今回、由香里のもとを訪ねて分かったことがある。

俺も馬鹿じゃない。何も分からなかったわけじゃない。」

そして、その真相を尋ねた。

「彼女はメールを打っていない。メールを打っているのは、おそらく彼女をよく知っている他の誰かだ。」

なぜ? の質問に

「あの病院は携帯電話の電波が届かない。病院なんだからあたりまえと言えばあたりまえだ。打てるわけない」

辻褄があう。一昨日、ユウジに電話をかけてつながらなかったのは、ユウジが病院の中にいたから、ということになる。

昨日、電話がつながったのは、帰りの電車の中だったから。電話に出ることは出来なかったらしい。

「ユウナさんの誕生日、マナミさんとは二人きりでいったい何を話したんだ?」

「マナミちゃんと由香里は親友だったらしい。たったそれだけのことだよ」

初耳だ。しかし、それだけのことで色々と分かった気がした。

彼女は俺と同じ福島県出身。俺は彼女のことについてあまりにも無知だったのだ。

 

ちょっと書き疲れた。

今日の日記はこのくらいにしておこう。続きを書いたら長すぎる。続きは明日書こう。どうせ、明日もこのこと以外書くことないだろうし。

 

 

10月20日(日) 雨

いろいろなことがあって頭が混乱している。

何から書こうか。

とりあえず、今日のことを書こう。

印象深かったのか、会話の内容はそれなりに描写できていると思う。これも覚えている範囲で。

 

昨日のユウジの話を聞いて、確かめなければならないことができた。

写真だ。

俺はユウナさんに電話して、アヤナさんの電話番号を聞き出した。

そして、アヤナさんに直接話を聞いた。

その写真はどんな写真だったか、を。

彼女は答えた。

二人とも夏用の制服を着ていて、後ろのほうで騒いでいる人が何人かいる。人がいっぱい写っている。

場所は学校の廊下。仮装大賞みたいにいろいろな人がいる。ふざけている人が多い。

そこまで言われて、どの写真か分かった。

俺の高校の文化祭の写真だ。

思い出した。

写真を撮ってくれたのはユウジだった。

なぜ、気がつかなかったんだろうか。答えがこんな近くにあったなんて・・・。

やはり、俺は彼女のことを知らなすぎた。

 

自分で入れたコーヒーを一杯飲んで、気持ちを落ち着かせた。

昨日、ユウジが入れてくれたコーヒーのほうが美味しかった。

 

俺は、いたずらメールの犯人に電話した。 

 

「もしもし」

「もしもし、翔馬です」

「・・・・・・うん。何?」

「最初は違うと思っていたんだけど。

今、アヤナさんに写真のこと聞いて分かったよ。

あの写真、高校の文化祭の写真だね?

現像した写真を由香里に見せたとき、彼女はこう言っていたんだ。

“焼き増し、2枚欲しいんだけどいい? お姉ちゃんが欲しいんだってさ。私の彼氏が気になるご様子で”

と、笑いながら。

他の人にあの写真はあげていない。ユウジにも、だ。

どういう意味か分かるよね? お姉さん」

「・・・・・・・」

「あの写真を持っているのは姉であるマナミさんしかいないんだよ。

由香里のお姉さんは高校が違った。だから当時は顔も合わせたこともなかった。由香里の家に行ったのは四度ほど。

しかし、一度もお姉さんとは顔を合わせたことがない。

俺は何も知らなかった。

彼女のことについても・・・・。あなたのことについても・・・・。

まさか、彼女の姉が俺に恐怖を味あわせるために、俺の元に現れるなんて。想像もつかなかった。

携帯電話は二つ持っていたんだね? もともとは由香里のものか?

由香里のフリをして、いたずらメールを送りつづけた。俺のせいで精神病院に送り込まれた、と思い込んで」

そこまで言って、彼女は昂揚しながら言葉を発した。

「・・・・・・思い込んで? 

思い込みなんかじゃない。

由香里はあなたのせいで病院に行かなくちゃならなくなったのよ。

あの日、由香里はぼろぼろの服にアザだらけの体で放心状態のまま家に着いた。

家族中を震撼させたわ。

由香里は、そのまま気を失って病院に運ばれたの。

気がついたときには声が出なくなってた。

よほど怖かったんでしょうね。

あなたはその日以来、由香里とは会わなくなった。

なぜ?

それまで付き合っていたのに。

声を失った妹は、必死になってあなたをかばってたわ。

翔馬ってやつがやったのね? と聞くたびに、大きく首を横に振っていた。

健気でしょ? 妹。

自分から振ったから負い目を感じてたんでしょうね。かわいそうに。

そんな男振って当たり前なのに。

その腹いせに犯すなんて・・・・。人間として最低だわ。

結局、妹を犯した犯人は捕まらなかった。未だに、よ。

翔馬ってやつが犯人だ、って言ったのに、警察は取り合ってくれなかった。

完璧なアリバイがどうのこうの、って言い訳がましいわよ、警察も。

そんな中、受験が私を焦らせた。

同時に私にチャンスが生まれた。

そうよ。あの男と同じ大学に進学して、何食わぬ顔で近づく。妹の復讐が出来る。

なにせ、私の顔も名前も知られてないんだから。

翔馬の進学するところを友達から聞き出して、そこを受験しようと思った。

勉強の甲斐あって見事私は合格したわ。

しかし、勉強不足だったのかあなたは合格しなかった。

そうでしょうね。妹を犯した罪悪感が重圧となってのしかかってきたんでしょ?

結局、あなたは第二志望に受かって、そこに行くことにした。

私は焦ったわ。このままでは復讐できない。

しかし、焦る必要もなかった。

あなたの第二志望の大学は第一志望の大学のすぐ近くにあったから。

そのまま進学すればいずれ会える。

そんな気がしてたから。

バイト先で裕二君に会えたのがその証拠よ。

合コンの話を持ちかけたのは私。

高校時代の友達がいる、って言うからその人も誘ってよ、と裕二君には言っておいた。

あとは、あなたの推測通りよ。写真もメールも全て私よ。」

俺は彼女が話し終わるまで黙って聞いていた。

コーヒーが美味しくなかったのは、こういう事態が待ち構えていると心の中で思っていたからかもな。

ゆっくりと、俺は重い口を開いた。

「・・・・・信じてもらえないかもしれないが、俺は由香里を犯していない。

彼女がそんな目にあっていたことすら知らなかった。

それに由香里を振ったのは俺のほうだし。

腹いせなんてとんでもない。

彼女は優しいから誰にも迷惑かけたくなかったんだ。

だからこんな結末になっちゃったのかもしれない」

「冗談じゃないわよ! 何がこんな結末になっちゃったのかも、よ!

ふざけるのもいい加減にしてよね。」

マナミさんは怒りをあらわにした。

取り乱していた、という表現が適切かもしれない。

「あなたに一体何がわかるって言うのよ! 妹の苦しみの何がわかるって言うのよ! 私たち家族の苦しみ分かるの!? 家庭が崩壊したのよ。私の人生返してよっ!」

悲痛な叫びが俺を黙らせる。何も喋れないうちに、彼女は泣いていた。

電話越しに聞こえてくる彼女の泣き声は、俺を苦しめるのに充分だった。

「・・・・・ごめんなさい。彼女に何もしてやらなくて・・・」

そう言うのが、やっとだった。しばらく、彼女の鳴き声だけが電話を通して虚しく響いていた。

そして、冷静になった後、彼女はこう言った。

「明日・・・・・会える? 大丈夫。復讐はもうしないから」

少し戸惑ったが、俺はオーケーの返事をした。

明日は大学の講義はお休みしよう。

 

今日は疲れた。

夜、ユウジが俺の家に来る。

というか、今既にいる。

今日はここに泊まっていくらしい。

今からユウジに今日あったことについて話そうと思う。

彼は今、テレビを見ている。

仕方がない。今日は俺がコーヒーを作ってやろう。

今日も窓の外から星は見えなかった。

 

 

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