もう一つの日記
「翔馬の日記」番外編
〜もう一つの話〜
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壇上にいる彼らは、とても楽しそうに演奏していた。 テンポが良くて聞き心地の良いポップスや激しいロック、染み渡るバラード。 宏一たちのバンドは曲の種類が多彩で、聞き飽きない。 間奏中、真奈美はふと周りを見渡す。会場は思った以上に混雑していた。聞いている人数は去年の倍に近いのではないだろうか。宏一たちの活動の成果が、そこには如実に現れていた。 曲が終わり、MCの途中に彼らに黄色の声援が飛ぶ。結構な数の女性ファン。彼を見ている娘も中にはいるのだろう。 続いて、会場に流れる切なげな旋律。今のこの曲は、彼が去年の冬に作っていたものだった。 「出来たら一番に聞いて欲しいな。パートはギターのみだけど、ね」 ギターを抱えながら、彼がそう言って笑ったのを彼女は覚えている。 彼の声が、真奈美の耳に届く。彼は今、誰のために歌っているのだろう? 会場の客のため、恋人の悠菜のため、それとも―― 真奈美は目を閉じて小さく息を吐いた。 こんなことを考えるなんて、どうかしている。 ラブではなくライク。 宏一に対する自分の気持ちはそうだったと、真奈美は今でも思っている。 彼女は隣の翔馬をそっと覗き見た。 ラブ、もしくはミス。 そうはっきりと言える相手。 そうだと信じている自分。 けれど、 それは何故だろう? 翔馬はじっと、真剣な顔でライブを聞いている。 いや、あるいは「見て」いるのかもしれない。 白く霞のかかった緑。 柔らかで、優しくて、向こう側を見通せないカクテル。 味はミント。 爽やかで、刺激のあって、 冷たさのある味。 自分の翔馬に対する印象をみあに見透かされたようで、少し怖かった。 『あまり思いつめちゃ駄目だよ』 みあは、最後にそう言った。 意味が分からないのに、同時に納得してしまった、あの言葉。 それは今も、真奈美の頭の中で回り続けている。 「今日は来てくれてありがとうございました! それでは最後の曲、聞いてください」 宏一たちの人気ナンバーが始まり、演奏と共に、会場が盛り上がる。 今に向かって広がる曲。 未来に向かって綴られた詩。 客に向かって演奏をする彼ら。 彼らに向かって手を振り上げる人々。 自分は、どこに向かっているのだろう。
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