もう一つの日記

 

「翔馬の日記」番外編

〜もう一つの話〜

 

 

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目的地まで歩いて5分程。

派手にデコレーションされた門をくぐって、2人は大学のキャンパスに足を踏み入れた。敷地内には出店が立ち並び、どちらを向いても何かしらのイベントが催されている。行き交う人々も大学生ばかりではなく、親子連れや制服姿の高校生もいた。

「へぇ、随分と活発だな」

翔馬は感心して呟く。

自分の大学の学園祭では、「内輪で馬鹿騒ぎ」の印象がぬぐえなかったからだ。

「そうね。私は去年彩奈や悠菜と来たけど、その時にもびっくりした」

「なるほど」

返事をしながら真奈美の方を向くと、彼女はこちらを見ながらにっこりと笑っていた。

艶やかな髪、多少幼さの残る整った顔、細身だが女性的なシルエット。

自分の贔屓目を差し引いても、彼女は美少女だと思う。

白のベレー帽とコートにワインレッドのシャツ、淡く紅の入ったパンツに落ち着いた色合いのバッグと靴。

上品で中性的なファッションの真奈美は、翔馬の知っている今までの彼女とはまた違った印象だった。

「……そう言えば、真奈美がパンツルックなのって初めて見た」

「あ、うん。そうかも。どうかな?」

彼女は帽子を軽くかぶりなおしながら聞く。翔馬は少し困った。

彼は気の利いた言葉にも歯の浮くような台詞にも縁がない。そういったものは親友の裕二のほうが向いている。

「似合ってるよ、とっても」

月並みな返事しかできない自分が情けなかったが、それでも真奈美は「ありがと」と言って嬉しそうに微笑んだ。

それから、上目遣いに悪戯っぽく見つめてくる。

「翔馬くんが頑張ってくる、って裕二くんから聞いたから、私も頑張っちゃった」

翔馬はあごに指を添えて首を傾げる。

5秒後、言葉の意味が分かって、彼は思わず空を仰いだ。

「……あのやろう」

今彼が着ているものは、つい先日新調したものだ。

その際に裕二に付き合ってもらったのを思い出す。

裕二はあの時何も言わなかったが、いつもは割とラフな格好の翔馬が俗に言う「きれいめの」服を買うのを見て見当をつけたに違いない。

わざわざ真奈美に伝えるとは、口が軽いとまでは言わないが、まったくおせっかいな友人だ。

「翔馬くんも似合ってる。格好良いよ」

真奈美の言葉が照れくさくて苦笑してしまったが、まあ、そう言ってもらえただけでも多少無理をした甲斐があった。

2人はそのまま1時間半ほど構内を歩いた。

絵画や写真、映画や小説といった「学生らしい」展示物から、占い、自作ゲームのデモ、コンパ形式の出会い等、内容を確認してまわるだけでも結構な時間がかかった。

と言っても、実のところ、その「内容」を翔馬はろくに記憶していない。

思い返そうとして再生されるのは、りんご飴を舐めている彼女とか、相性占いの結果に喜んでいる彼女とか、猫の家族をとった写真に見入っている彼女とか、要するに真奈美の事ばかりなのである。

「はっきり言って病気だよなぁ……」

 コーヒーカップを片手に、翔馬は苦笑気味にぼやいた。お医者様でも草津の湯でも、とはよく言ったものだ。

「ん?どうしたの?」

「ああ、これからどうしようかなって思ってさ」

「えーと……今は1時、かぁ。宏一くんたちのライブ開始が3時半だから、早めに行ったとしても結構時間があるね」

真奈美はカフェテラスの時計を見て呟いた。

「確かベースの人がこの大学なんだっけ?」

「うん、あとドラムの人もかな。去年もやってて、それを3人で見に来たの」

頷きながら、翔馬はライブで盛り上がっている真奈美たちを想像しようとした。が、いまいちピンとこなかった。

いわゆる 「はじける姿」がイメージできない。

「彩奈さんと悠菜さんって、ライブとか好き?」

真奈美は、あはは、と困ったように笑った。

「今は多分大丈夫なんじゃないかな。でも、その時は2人ともぐったり。初めては耳にくるよね、あれは。私もそうだったもん」

 半分放心状態の2人を想像してみる。今度は何故かはっきりと思い浮かんだ。

 携帯電話の振動を感じてたので、着信を見る。メールが一通。差出人は、

 鳩峰恭二。

「あ、そうか」

 翔馬の呟きに、真奈美は不思議そうに彼を見る。

「ああ、メルともって言うか、ネットで知り合った奴がこの大学にいるらしくて……うん、やっぱり。良かったら遊びに来いっていうメール」

 翔馬は最近出会った(あくまでもネット上でだが)彼、恭二の事を思い浮かべた。以前そういう話を彼としていたのを忘れていた。

「ふぅん。あ、ひょっとしてこの前言ってた流空さんの事?」

「いや、あの人とはまた別。ちょっと行ってみようかと思うんだけど、いい?」

「もちろん。恭二さんってどんな人?」

「う〜ん、変わった人、かな……会ってみればわかるよ、多分」

  

 

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